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誌 友 作 品

松籟集 ∞ 風韻集 ∞ 潮音集、くすのき・あじさい作品


風 韻 集

   ★稲本 嘉一郎 (新神戸)    ★阪口 周 (篠山)
始発車の吊り輪の中の初明り 性別を聞かれし名前枇杷の花
鬼の面はずして焚き火囲みおり あぐらの中に赤子が眠る良夜かな
パリーから嫁の荷が来る桃の里 啓蟄や音符の柄の紙コップ
迷い児を肩に駅長花の昼 口漱ぐ頬のふくらみ鳳仙花
坐禅草父の形見の剣道衣 ブランデー・シュガーの炎夕桜
急須から五月のうたを出しにけり 花墨化粧ポーチの舌下錠
ふるさとの夢に色あり遠花火 秋深し展示の武具の弾の痕
ちちろ虫男が覗く針の穴 使い捨ての宿の歯ブラシ朝曇
苅田越え長持唄の遠ざかる 埋められし配電線や地虫出づ
海峡を望む埴輪や鵙の天 対局や楷書のような冬座敷
                                   
   ★田渕 夜州子(新神戸)    ★福田 秀子 (明石)
口よりも大きい煎餅三日かな 箸を持つことより年の始まれり
黒髪のSL貴婦人春隣 元日の陽のやわらかし鳩の首
日本ぢゅう何処を切っても桜かな 歌かるた遠き世の恋生きており
梅雨ながし胃の中覗きこむカメラ まりつきの唄のあたりの桃の花
蝉の声砂場のトンネル開通す こけしの目ほどの残月春浅し
入道雲アカンベーして鬼瓦 恋ぼたる里のくにから灯をもらう
次の世の入口あたり酔芙蓉 赤ちゃんが名前を貰う菊月夜
秋風や左の脳を切り落す 杭打って村がさびれる稲の花
七人の敵に秋草揃いけり 雪うさぎ跳ねよ少女に手紙来る
除夜釜やひとりになれば炭崩れ 冬至の湯母は木綿でありしかな
                                   
   ★宮川 周子 (神通)    ★四方 花紅 (室蘭)
夕闇の溶かしきれずに白木蓮 貝塚のくちなわ海のいろ湛ふ
しんきろう波打ち際の貝一つ しずくから薔薇を妊る水のくに
醒め際の夢のつづきの水中花 水際に着き夕凪を脱ぐ少年
冬銀河船長室のネックレス 観光馬車花野の他の道知らず
主婦の座に馴れあたたかき冬の水 銀河から垂らすロザリオ夜明け前
神木の記憶を揺する春一番 メビウスの輪の行く末や穴まどい
夏潮やロシアの歌の聞こえくる 十字架の黒燦燦と冷ゆ出島
空を切る碁石の音や春の月 北狐死す暁のハイウエイ
花は葉に万年筆の太字かな ダイヤモンドダスト天女をいけにえに
犬の背も男の肩も穀雨かな 日輪も嶺もしびれて結氷期
                                   
   ★松谷 眞佐子(志貴野)    
啓蟄のプラネタリウムおおぐま座
野火茫々後姿の父が佇つ
篠の子や一気に下る海岸線
少年の爪立ちて取る蝉の殻
水車小屋のからくり人形今朝の秋
自転車のパンク修理屋地蔵盆
十三夜草鞋を吊す坂の町
黄落のゴンドラ父の遠眼鏡
修復中のブロック塀や冬の蜂
チャップリンのリズムで歩く寒雀
                                   


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