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摩耶だより(各集巻頭句) 

2018年8月号      岡部 榮一 

 同行は円位か余花の径のぼる      中山 妙子

 
 円位は西行の法名。旅する生涯を過ごしたが、大阪の河内で陰暦二月十六日に没している。「願はくば花の下にて春死なむそのきさらぎの望月の頃」と願っていたので、忌日は二月十五日としている。芭蕉を始め崇拝者が多い。
余花は夏に入ってなお咲き残る桜。青葉若葉の山道を登りながら白く咲いている桜を見つけたのである。西行と桜の配合であれば作者の心情は推し量れそうである。




 種子まけば日捲り動きだしにけり    川辺 智惠子
                           
  種蒔は種籾を苗代に蒔くことである。全国的には八十八夜前後が多いという。南国と北国では種籾おろしにも差があるのは当然のことである。桜前線の通過や雪形を参考にしていたのは自然はその時期が来れば確実に気温の変化を教えてくれたからである。農家や漁師が自然をよむのは長年の経験からくる土地の教えである。
 籾を蒔いてから農暦が動き出したのである。

 

 外灯のにじむ八十八夜かな       中島 好光 
                      
 簡単明瞭でいいと思う。夏も近づく八十八夜の夜の情景である。句に深い意味があるわけでもない。また、そんなものを求めているわけでもない。酒でも飲んで外灯をぼ~っと見ているだけなのである。ぼ~っと見ながら夏を感じているのである。


 水量の減りしき木曽川修羅落し     金子 和夫
                         
 樹木の伐採は冬季に行われる。渇水期が終わり、雪解け水が増えてくると、丸太を並べた上を滑らす修羅落しや、木馬橇を使って伐採してあった木材を谷川や支流まで運びだした。筏を組む網場まで木材を出すのを木流という。
 さて、木曾はヒノキその他の良材の産地である。谷は深く大きな木材は運搬が大仕事であった。修羅落しなどはそのころの木こりの知恵である。修羅の由来は阿修羅と帝釈天が争い阿修羅が勝ったという仏典の故事から帝釈(大石)を動かすのは修羅であるとのことからである。いずれにしても修羅落しは現在は行われていない。



 夏の雲踵はたらく地引網        角倉 一男    
        
 地引網をひくのは綱引きと同じ要領である。浜の砂は柔らかい踵をたてて踏ん張らないと力が出ないのである。よく見て描写している。夏の雲もはたらいている。


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