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摩耶だより(各集巻頭句) 
2018年1月号      岡部 榮一 

 鏡から髪があふれる十三夜      松田 眞喜子

 
 情念を具現化したいのである。別の言い方をすればイメージの世界において心情を重ねたいのである。詩の世界に埋没すれば解き放たれる現世の個もありそうだ。
 さて、入浴後の三面鏡の前で洗い髪を乾かしているようだ。髪の毛が長ければ乾かす時間も長くかかる。髪の毛は意外に重たいように思うし嵩張る感じもありそうだ。古来からこの国の女性の美意識に長い黒髪がある。千年前と今もそんなに変わっていない意識である。十三夜に重ねる黒髪は女性特有のものなのである。




 本丸も二の丸も草秋の蝶     木村 オサム
                           
  篠山市で行われる吟行会の俳句ラリーでの作である。篠山城は築城は大書院と二の丸を中心とした城だったが明治六年の各地の城の取り壊しによって大書院を残して取り壊されてしまった。昭和十九年に失火で大書院も焼けてしまいまったが平成十二年に復元されている。城址は国の史跡に指定されている。
 郭は何もない城跡であるが礎石は残っている。手入れはされているが雑草は処かまわず生えているのである。

 

 登高や腰叩きつつ見る三山      村上 直 
                      
 三山は香具山、畝傍山、耳成山である。さてどの山に登って眺めたのかは定かではない。登ってすぐに腰を叩きながら眺めるぐらいのことであればそれほど高くない丘と考える方がよさそうである。登高は旧九月九日に小高い登り、厄を避けようとした行事である。重陽の行事のもとになった中国の古い風習である。




 丁寧に畳む便箋雁渡し       岩切 恵子
                         
 読んだものか書いたものか、来た手紙ならば折り目はすでについているであろう。さすれば、書き終えた便箋であろう。丁寧に端を揃えて畳むのはそのようにする必要を感じているからである。それは何故であるかは作者しか知らないことである。
 さて、分かるのは丁寧に畳んでいるという事実である。俗に折り目正しいとは、礼儀正しく、きちんとしていることである。目に見えない先様に折り目を正すことは、なおさらにきっちりとした心を伝えたいものの様に感じさせる。初秋から中秋にかけて吹く北風も気を引き締めるようである。




 背比べの爪先立ちや虫すだく      津川 聖子    
        
 近所の仲良しが公園で遊んでいるのである。小学生の女の子が五~六歳の女の子の背比べをしているのであろう。小さいと言っても比べられれば少しでも大きく見せようと知らぬ間に背伸びするのである。かけっこにしても縄跳びにしても負けることは嫌なものである。良い悪いではなく動物として受け継いできた本能であろう。
 花いちもんめのような遊びでもいろいろな心理が働くようである。この時代から少しずつ社会での人間性が形成されてゆくのではないかと思う。秋も深まり行くようである。


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