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摩耶だより(各集巻頭句) 

2019年6月号      岡部 榮一 

 英彦山に久女の涙春の雪    若林 千尋

 
 福岡県と大分県にまたがる標高千二百メートルの英彦山である。山上には英彦山神社がある。
昭和五年に大阪毎日、東京日日新聞社主催の日本新名勝俳句(選者・虚子)に入選二〇句の中の一つが久女の「谺して山ほととぎすほしいまゝ」である。この句は一ヶ月ほど英彦山に毎日登って得た句である。
 昭和十一年にホトトギス同人を破門になった久女のその後の俳句人生は壮絶なものであったようである。英彦山を眺めながら久女の涙に想いを馳せたのであろう。春の雪と久女の涙が同化したのである。



 チューリップ色鉛筆が家出中   瀬山 賤女
                           
  昔観たディズニーのアニメーション映画の様である。花や木が歌い馬や牛が踊ったアニメである。チューリップからすると親指姫の物語である。
 さて、何色が家出をしたのかである。花の色からすれば赤、黄、桃、緑などが居なくなったようである。句は家出中の措辞で従来句からファンタジーに抜け出たようである。
 

 黒文字で鶯餅よ鳴けと突く   佐藤 勝 
                      
 くろもじはクスノキ科の落葉低木。材は香気を持ちつま楊枝や箸にする。特に和菓子を食べるときに添えられる言えばフォークのようなものである。その黒文字のつま楊枝で鶯餅を切り分けて食べているのである。
 鳴けと突くが惚けていて面白い句である。


 雲雀東風上下逆さの世界地図   山本 秀雄
                         
 ニュージーランドやオーストラリヤで南極を上面にした地図が売られているらしい。地球の上下逆さまの地図は正式なものではなく土産物として売られているようである。世界の地図の基準は北極が上の我々が使っているもので統一されている。すべてが北半球基準のように考えている北半球に住む人々への皮肉の意味もあるようである。遊び心である。


 啓策の音はね返す寒の寺     只政 昇司    
        
 禅寺の景である。禅寺で禅の修行の体験をさせてくれる禅寺はいろいろである。座禅会などで受け付けて参加することもできるようである。短時間のものもあれば宿泊して体験するものもある。静寂の中での啓策で叩く音は鋭いものであろう。寒の寺も活きている。

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