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摩耶だより(各集巻頭句) 

2018年5月号      岡部 榮一 

 春隣ピアノの上の婦人画報        松谷 眞佐子

 
 創刊は一九〇五年であり約一一三年の日本で一番古い雑誌である。婦人画報の名が示す如く主婦向けのファッション、旅行、料理などが網羅されている雑誌である。男性にとっては医者や喫茶店などで雑誌の存在を知ることはあってもほとんどと言っていいほど手にすることのないものである。
 さて、掲句のピアノがあり雑誌がある景はどこであろうと考えてみれば新聞や週刊誌や雑誌をおいてあるのは自宅や喫茶店などが思いつく。先ず自宅が考えられるが婦人画報を購読するのはよほどのファンである。少なくとも美容院に行けば必ずありそうな婦人画報を購読するとは考えにくい。ピアノがあり週刊誌や雑誌が目に付くと言えばやはり喫茶店かもしれない。時々演奏会などもするのであろう。歴史のある雑誌の春の装丁と春を待つ心がうまくでているようだ。




 シャンシャンと音際立てり機始め     大賀 華文
                           
  京都府北部の京丹後市は丹後ちりめんの生産地である。日本の絹糸の三分の一を消費し、和服地の六~七割を生産する日本最大の産地であるが昭和五〇年ごろに一万人いた組合員が現在は高齢化のために千人を割っているようである。絹糸も養蚕業者がほとんどいなくなったために中国製がほとんどであるらしい。
 正月休みも終わりあちこちで自動機織り機が稼働し始めたのである。シャンシャンと軽いリズミカルな音を聞いて日常に戻るのである。

 

 喪帰りの四・五人土筆野に屈む       佐々 紀代 
                      
 葬儀帰りの四・五の一団です。故人との関わりはそれぞれでしょ。葬儀は近隣のセレモニーホールでのようです。霊柩車を見送って故人や家族のことを話しながらの帰宅途中に誰かが土筆を見つけたようです。以外に沢山出ているようでついつい摘んだのでしょう。黒服の四・五人が野にかがんで土筆を積んでいるのは遠くから見れば何事かといぶかる情景です。死者を送る事も野原の春の贈り物も一期一会のものなのです。




 葉牡丹や臓器提供記入欄     青山 敏之
                         
 脳死判定に従い脳死以後に臓器を提供する意志、心臓死後に臓器を提供する意志を記入する、あるいは提供しない意志を記入する欄である。健康保健証や運転免許証の裏面などに記入欄がある。平成二十二年以後、脳死移植は提供する意志が示されていなくても家族の同意が得られれば移植は可能となった。
 さて、運転免許証の更新をしたようである。真新しい免許証の裏面には臓器移植の有無の詳細が印刷されている。コーヒーを飲みながら眺めているのであろう。葉牡丹の渦が臓器のように思えたのである。



 民宿の太柱の釘寒明ける        佐野 豊    
        
 古い家なのである。大黒柱がかなり太いのであろう。昔の大きな家は頑丈に造られているものである。スキー場の近くの農家の民宿、魚釣りなどの漁師の民宿、蟹や海のものを食べさせる民宿。民宿と言ってもさまざまである。
 さて、この民宿はどのような民宿かなど詮索しても意味のないことである。どのようなものにしろ民家が許可を得て営む簡易な宿泊施設であることに変わりはないのである。黒光りする大黒柱にこの家の歴史があり生活があるのである。やっと寒も明けたのである。


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