玄鳥TOP

摩耶だより(各集巻頭句) 

2018年10月号      岡部 榮一 

 梅雨の傘ばさばさ開き小市民     石田 剛

 
 小市民は中産階級に位置する者、すなわち社会成層の中間に位置する諸階層。また、支配層と被支配層との中間にある階級の者のこと。俗に、つましく暮らす一般の人のことなどを指す。プチブルジョアの訳語である。
 傘には和傘と洋傘がある。和傘と言えば紙と竹でできた唐傘である。都市には似合わないが温泉街ではしっくりする傘である。唐傘も開くとき掲句の擬音のような音がするが句は温泉街の景ではないようである。句の傘は洋傘すなわちこうもり傘である。こうもり傘の進歩もめまぐるしいものがある。小さくたためるものや一気に開くもの鉄製の骨やグラスファイバーの骨などさまざまである。最近は安価なビニール傘などが流行りである。
 さて、ばさばさと開くのはジャンプ傘と言われるワンタッチで開く傘であろう。駅を出た勤め人がよく使っている傘である。一斉に開けば句の景となろう。傘を開くばさばさが小市民そのもののようである。




 光年の彼方の未生天の川    森内 洋子
                           
  光年は光が一年間に進む距離。すなわち約九兆四六OO億キロメートルと言われている天文学上の単位である。とてつもなく大きく長い距離とはわかるが想像は困難である。天の川は銀河系の円板部の恒星が天球に投影されたもので数億個の恒星からなり、天球の大円に添って南北に淡く帯状に見える。夏は濃く冬は薄く見える。太陽系を含む銀河を天の川銀河と呼ぶ。
 生命の誕生の神秘と死後の世界観は古代から人類が抱えて来たテーマであろう。光年の彼方の神秘はまさに未生そのものなのである。

 

 夏草の咽せる匂ひや墓仕舞       年清 彰雄 
                      
 故郷に在る先祖代々の墓であろう。父母も鬼籍に入った今、長男が後を取れば別だが兄弟姉妹が故郷を離れて生計を立てていれば自分たちが生きている間は盆暮れに墓参りはしても息子、娘の代になれば不確かなのである。元気なうちに墓仕舞いをして菩提寺に永代供養に祀るかあるいは自分の墓に入れるかである。少子化の現代は特にこの墓仕舞いの傾向が顕著だと聞く。無縁墓になるよりはよさそうである。夏草が切なく響くようである。


 転生と七足の靴天の川       岩切 恵子
                         
 六道輪廻のことであろう。地獄、畜生、餓鬼、人間、天界に阿修羅を加えて六道である。生命はこの六つの境界をぐるぐるとうつり変わっていくといわれているのである。六道輪廻はお釈迦様が発見したと言われている。それまでインドでは天界と人間界と地獄の三つの世界を行き来する素朴な輪廻が言われていたようである。
 界をうつり変わるごとに靴が変わるのだと言うことなのであろう。七足目の靴を履いてどの界に戻るのであろうか。見えてはいるが天の川は遥かに遠いのである。



 良く笑う赤子の力麦帽子      森田 成子    
        
 よく笑う健康そのもののような赤子の力である。赤子が仰け反る力や踏ん張る力の句は見たことがあるが笑う力は新鮮な響きである。高い高いなどでキャッキャッと笑う力は夏の暑さにも負けない力であろう。健やかに育つ元気な赤子が思われて良である。


玄鳥TOP