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摩耶だより(各集巻頭句) 
2017年10月号      岡部 榮一 

 ナース来て蟇見しことを言いふらす     横山 冬都

 
 蟇はガマガエルともイボガエルとも呼ぶ。体は大きいが動きは鈍い。夜に出て昆虫を捕食する。耳腺から有毒の白い分泌物を出す。その分泌物を練ったものを昔から戦陣の膏薬として火傷、皹、皸、切傷などに効能があると言われていた。大道に人を集めて香具師が口上面白く売ったもののようである。
 さて、ナースが蟇を見て来たという。蟇と言えば香具師の口上にもあるが筑波山麓と相場は決まっている。ナースは筑波山にハイキングに行ってきたのであろう。その山麓で蟇を見たのである。と言っても特別珍しいことでもないことである。件のナースは多少とも俳句の心得があるのかもしれない。大げさな言い回しがナースの興奮度を感じさせて面白い句に仕上がっている。




 初産の乳迸るひろしま忌        瀬山 賤女
                           
  初産であれば若い人である。産む人も生まれ子も戦争には直接的には無縁である。時の移ろいは誰にも阻止できるものではなく大河となって流れているにすぎないのである。新しく生まれた子に人類最初の原爆投下がどのような意味を持つのかはよくわからない。
 歴史的な事実が薄れてゆくのは致し方のないことではあるが未だに争いがなくならないのは不幸である。この星に永遠に争いはなくならないのかもしれない。人類は学ぶことをしない動物なのであろう。迸る母乳がこの子を元気に育てるであろう。この星の未来は何時までも美しくあってほしいものである。誕生と鎮魂の句である。

 

 大仏の胎内潜り心太           村上 直 
                      
 関西の小学校、中学校のバスでの遠足は京都や奈良がほとんどである。印象に残っているのは金閣寺、清水寺の京都。法隆寺、東大寺、若草山の奈良である。特に大仏はその大きさから一番印象深いように思う。大仏の堂宇の柱に三十センチほどの角の穴が開いておりそれが大仏の鼻の穴の大きさと同じだと言われたことが特に忘れられない記憶である。こぞって潜ったものである。
 さて、大仏の胎内潜りであれば鎌倉の大仏の胎内巡りか高岡大仏の台座の下の奈落を潜りが相当であろう。潜りの印象からすれば高岡の大仏が思われる。




 芥子ならば折られる覚悟の恋をしな     岩切 恵子
                         
 芥子にはアヘンを製するものとオニゲシやヒナゲシの様に観賞用に栽培されるものがある。普段見ているものは観賞用である。最もアヘンをとる芥子の栽培は禁止されている。
 さて、掲句は強い口調で言い切った形であるのは芥子は麻薬を製することも可能であることを踏まえたものである。毒物の芥子を象徴的に使っているのである。世間の目に触れてはいけないものとして芥子を使っているのである。それを超えて世間に出ようとするのであれば折られることを覚悟でなければならないというのである。昨今の不倫騒動に一石を投じたのである。



 海山に日焼け重ねし六十路かな       野田 健司    
        
 健康的である。地域コミュニティの役員などもされていると聞く。結構に時間を取られているものと思うが趣味の世界は寸暇を惜しんでこなすようである。冬はスキー、夏は登山、そして年中の海釣りや渓流釣りである。七十に近い年齢と思うがとにかく元気である。日焼けを重ねることができることは何よりの事である。野外の活動や趣味もいいとは思うが俳句も忘れることなく向き合ってほしいと願う。


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